単回医療機器再製造推進協議会共催座談会
後編 討論会
参加者 関 丈太郎様 主催者(ITEC病院運営研究会 代表) 上塚 芳郎先生 座長・発表者(前東京女子医科大学教授、単回医療機器再製造推進協議会最高顧問) 植村 康一様(一般財団法人流通システム開発センター ソリューション第1部 部長) |
上塚:本日は、4名の演者の方にお話いただきました。これから対談という形で討論を開始させていただきたいと思います。
先ず武藤正樹先生から『医療機器と安全』というテーマで名古屋大学のトロッカー事件を先ほど発表していただきました。医療機器を使用する術者側の問題なのか、医療機器自体に不具合があるのかということは、なかなか病院だけでは原因調査ができません。私のいた東京女子医大でも、手術中に腹腔鏡のシーリングデバイスの先端ワニ口部材が脱落し、腹腔内に落ちてしまい、1週間後にもう一回、再開腹して取り出したことがありました。
取り出すことはできたのですが、何故、どのように脱落したのか、PMDAに報告する、更に医療機能評価機構にも報告するという制度はありますが、これらの機関は、その原因を調査しませんので、メーカーに依頼し調査してもらいました。
数カ月後、メーカーの見解は、「これは全世界で使用されているもので、特に大きな問題はない。恐らくは術者が力を入れ過ぎたため、起きたのではないか」ということでした。
医療機器が高度化してくるに従い、病院の臨床工学技士にとっても一見して不具合を見つけることは非常に困難になってきています。
東京女子医大の先端生命医科学研究所では、医療機器の研究を行っており人工心臓や再生医療についてはかなり詳しく分かるのですが、それ以外のものは、簡単には解明することはできません。
そのため、医療事故が発生した場合、メーカー頼みになります。その点、武藤先生のプレゼンでも第三者機関が必要ではないか、というお話がありました。
話が少し脱線しますが、単回医療機器の再製造の重要なポイントとしてリバースエンジニアリングがあります。一度使用した医療機器を収集し、洗浄する過程で部材が不具合はないかを確認することは、相当綿密な知識がないと判定できません。リバースエンジニアリングの中で自分たちが技術を習得するという部分があると思います。それにより、日本のメーカーの技術力がレベルアップすると思います。
第三者機関については、医療機器の医療安全について、厚生労働省の中井課長、高畑課長補佐が、本日ご参加いただいておりますので、コメントがございましたらお願いします。

上塚 芳郎先生 座長(前東京女子医科大学教授、単回医療機器再製造推進協議会最高顧問)
中井:第三者機関に関しては、一つの考えであると思いますが、事故調査委員会等がありますので先ずは、既存の機能というものも活用していくことを考えることが第一と思います。
一方で、武藤先生のお話にもありましたとおり、不具合報告については、全てその概要を公表していますが、より使い勝手が良くして行く必要があると考えています。

中井 清人様 (厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課課長)
武藤:米国のMAUDEのようなデータベースがあれば、使い勝手が良いと思います。
長谷川:医療事故の原因が、特定できない場合、それを利用する側が違う形で解釈することもあり、ライセンサーに評価してもらう仕組みが、日本の場合には必要かもしれません。
武藤:そのようなデータベースを公開するルールを決め、誰もが入力できるようになれば良いと思います。
中井:そのデータベースを、様々な先生方が解析してくださるようになれば、とても良いと思います。
上塚:確かにアメリカのように誰でも報告できるようになると、素晴らしいデータベースとしなりますね。しかし、日本では中井課長が言われるように色々、特に個人情報について、行政側の対応に非常に厳しい要求が出されるでしょう。
中井:日本では、不具合報告は医療機関、製造販売業者による報告、それに患者副作用報告があり、それらは基本的に公表されています。しかしながら、先生が言われたように、データベースとなっていないことや、概要となっている場合があります。また、今回のコロナワクチンについて言えば、企業から電子的に報告されているものは全て、個人情報を除いて公表していますが、やはり、これも、データベースとして公表されていないことが有り、そこは課題だと思っています。
原山:先ほど中井課長もお話されましたが、医療機器は時代とともに進化しております。昔は不具合を出すことによって企業のイメージが悪くなる、またその製品のイメージが悪くなるという状況がありましたので、中々報告は行いませんでした。
それが、薬機法の改正で不具合情報が公開されていくと、企業のペナルティーではなく医療機器をより安全に使用していただくための情報提供という考え方が浸透し、企業側が不具合報告を積極的に出すようになりました。
一方、医療機関も報告するようになっていますが、医療機関側からの報告が少ないという問題を最近感じています。
上塚:なるほど。企業としては、むしろ今は積極的に報告するようになっているということですね。
原山:はい。医薬品ほどにはいってはいませんが、企業側からは報告しています。
長谷川:特定の医療機器の不具合報告はあるのですが、全体への周知が大切です。日本医療機能評価機構の事故報告事例は英語版もあり、事前にそうした事例を知っていると「前に穴がある」と分かり、アジアに対しても非常にアピールできるのではないでしょうか。
そのような公表が事前にあれば、日本の最新の共通認識を踏まえた上で議論が進むので非常に有用です。

長谷川 フジ子様 (GS1ヘルスケアジャパン協議会 企画・広報推進部会 副主査)
上塚:情報が公開されることによって、「そこに穴があるから、それを避けなければならない」ということが、周知されるといいですよね。