医業経営の視点からみて

医療材料マネジメント

第5回 病院運営のためのGS1標準バーコード、バーコード管理による医療材料マネジメント

上塚:本日は、東海大学医学部付属病院の澤田先生をお招きしております。
私が東京女子医科大学病院に在席していた時、病院の採算について調査したことがあります。その当時、循環器や整形外科等は、売上はとても大きいのですが医療材料費があまりに高く、病院にはほとんどお金が残らないことがわかりました。
そのため、以前に京都第二赤十字病院の田中先生のお話にもありましたように、同種類の医療材料をまとめてメーカーを統一するなど試みましたが、バルーンカテーテルやステントなど高額な医療材料ほどメーカーと医師との関係が強固で、非常に苦労した経験があります。
例えば、外科の先生は通常、新しいオペの製品が出ると直ぐに使用して効用を確かめたいと思います。ただ、それが採算的にペイするかどうかは興味がありません。ですので、オペ後にチェックしてみると赤字になっていた、ということが多々ありました。トレーサビリティを含むマネジメントは大切と実感しておりまして、本日は澤田先生のお取組みを拝聴できること、楽しみにしております。それでは、澤田先生よりお話を頂いたのちにディスカッションしたいと思います。宜しくお願いします。

左上:座長 上塚 芳郎先生(前東京女子医科大学 教授) 右上:ITEC病院運営研究会 代表 関 丈太郎(アイテック株式会社 代表取締役) 下:澤田 真如先生(東海大学医学部付属病院 麻酔科 助教)

澤田:先ず自己紹介させて頂きます。私は、東海大学医学部付属病院(神奈川県・伊勢原市)に麻酔科医として勤務しております。
麻酔科医がGS1標準バーコードに携わっている理由ですが、きっかけは2015年に手術室のシステム担当者になったからです。2015年まで当院の手術室では手書きのカルテを使用していました。その電子化にあたり、たまたまコンピューターに興味があった私が担当者として任命されることになりました。その際に医療材料の管理をバーコードで行うことを提起し、幸いにもうまくいったので、本日はそのお話をさせて頂こうと思っています。

今回私の選んだテーマは「病院運営のためのGS1標準バーコード、バーコード管理による医療材料マネジメント」という内容で、ベースは2年前の医療情報学会で発表した内容になります。
この発表の研究は厚生労働省からの依頼されたものです。当時厚生労働省は、GS1標準バーコードが医療現場で高い割合で普及しているのにも関わらず、医療現場ではほとんど活用されていないことに危機感を抱いていました。そこで、GS1標準バーコードがどのように活用できるかを検証し、より活用を普及させるために「UDI医活用推進事業」が発足しました。その事業で行なわれた検証の一部を当院が担当しましたので、具体的にどのようなメリットがあるのかを検証報告を基に説明したいと思います 。

先ず、皆様ご存知のように商業・流通の世界ではバーコードによる製品管理が普及しています。バーコード管理の主なメリットとしては「安全」、「効率化」、「情報活用」の3つがあります。
具体的な活用で一番分かりやすいのは「効率化」です。スライドにもありますが入力作業が簡易化でき、更に入力したデータを関連したシステムに連携させることで大幅な省力化ができます。更に標準化されたバーコードが導入される前に使用されていた独自の製品管理用ラベルが削減できたことでラベルやプリンターが不用になり、ラベルを貼る人件費なども削減できました。

図-1

また、バーコードは安全性や情報活用にも使われています。安全性の活用としては、出荷された製品のリコール対応や有効期限の確認機能などがあります。
リコール対応の例として、コンビニでは食品に何か異常なものが含まれていた場合、どの店舗にどの食品が配達されたか情報管理しており、その情報を活用して対応しています。
また、有効期限や賞味期限が近い場合は、バーコードの読み取り時にアラートを出し、商品の交換を促すような活用もされています。
情報活用の面でも売上・在庫管理に活用するほか、出店場所の検討など経営判断にも活用しています。このように商業・流通においては、バーコードを多面的に活用しています。

一方、医療品についてもかなりバーコードは記載されています。GS1標準バーコードは、厚生労働省やFDA などが医療品に記載することを推進しています。特に医薬品では記載が義務化されており、100%の製品記載率を誇っています。医療材料や医療機器では、物によって面積が非常に小さいなどの理由から100%ではありませんが、それでも88.9%という比較的高い記載率を誇ります。
日本の医療は現在経済的に危機的状況です。その為に、商業や流通で革命的な発展をもたらした標準バーコードを今こそ活用すべきと私は考えています。

図-2

病院経営実態調査によると、約7割の病院が赤字となっています。病院経営の悪化は、サービスの低下や医療提供の停止、即ち病院が潰れてしまうことで患者が受診できなくなるという問題につながります。
実際、国からも2019年に424病院を対象とした再編・統合の話が出ました。病院経営の改善は、患者への医療提供のためにも必要なものであり、GS1標準バーコードを活用することで病院経営の改善を進めるべきというのが私の考えです。

前3回の対談でお話されていると思うので、簡単に説明させて頂きますがGS1-128という規格があります。この規格には、数字の左側から商品のコードや有効期限、ロットやシリアル番号などが記載されていて、トレーサビリティの実現に有効です。
このようにバーコードは活用される準備はできていますが、なかなか活用されていません。幸い当院では、バーコードを活用できる環境を構築できたため、実際に導入した効果について紹介させて頂きたいと思います。

東海大学医学部付属病院は、総合病院として手術室21室、年間手術件数は12,000件の大規模病院です。現在、医療材料のGS1標準バーコードに対応していますが、まだその範囲は手術室に限定されています。
手術室で扱われる医療材料は、55,000件弱が登録されています。医療材料の中には稀にバーコードが記載されていないものや、業者から借りる特殊な医療材料もありますので、完全にバーコードだけで材料管理ができているわけではありません。しかし、全手術のうち96%はバーコード管理で対応できています。
具体的に、バーコードの対応が困難な手術としては、脳血管手術、心臓血管手術、脊椎手術などの一部が挙げられます。理由は、非常に細かい材料を使用することや、借り物(質疑にて後述)の材料が多いことに起因します。

次に使用システムの説明に移ります。当院では NEC社の電子カルテシステムを採用しており、麻酔記録や手術看護記録を行う手術部門システムとしては富士フイルムメディカル社のシステムを使っています。医師、看護師はシステムに付属するバーコードリーダーで医療材料のバーコードを読み込み、その情報は使用医療材料として記録されます。その情報は電子カルテシステムや医事会計システムに連携するだけでなく、データを活用するための専用データベースシステム(Data Ware House:DWH)に蓄積し活用されています。

当院が医療材料の管理にGS1標準バーコードを採用した理由は、経済的合理性からです。GS1標準バーコードは、日本の医療で最も普及している国際規格になります。
他の病院事例では医療材料を管理するために独自のバーコードを発行するシステムを導入していることが多いです。この独自バーコードのシステムは高額で、保守費用も発生しています。この他にも、独自のラベルを印刷する場合はラベルプリンターも必要ですし、独自ラベルを貼る人件費もかかります。これらはGS1標準バーコードを使用することで削減できます。

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