医業経営の視点からみて

医療材料マネジメント

第2回 医療材料マネジメントにおけるトレーサビリティーと標準コード

: 医療のサステナビリティ―という点で今後の課題を議論する中で医療材料マネジメントにおけるトレーサビリティーについてお話を聞いて参りました。本日は前回お話をお伺いした上塚先生に加え、本件の推進に携わってこられた前NTT東日本関東病院の病院長であられました落合慈之先生、GS1 Japan(一般財団法人流通システム開発センター)ソリューション第1部 植村康一先生にお越し頂きました。ぜひ色々と教えていただければ幸いです。本日の進行と座長は上塚先生にお願いいたします。どうぞ宜しくお願いします。

上塚: それでは宜しくお願いします。さて、コロナ禍もあり、益々医療のサステナビリティーが日本の関心事となっています。先日は医療材料マネジメントの中でも特に標準マスターの重要性に触れました。今回は本件の推進で取り組んでおられる二人の先生よりお話をお聞きしたいと思います。
まず、落合先生をご紹介します。落合先生は脳外科がご専門で、以前はNTT東日本関東病院の病院長をされていました。また、GS1ヘルスケアジャパン協議会会長、一般社団法人医療トレーサビリティ推進協議会理事長をお勤めで、ご自身が病院長の頃に院内でのGS1のコード体系を用いた標準化やトレーサビリティー体制の構築を積極的に進められました。

先生にお話を伺う前に、少し最近の動きに触れたいと思います。
「GS1ヘルスケアジャパン協議会」主催のセミナーが2019年3月にありました。さらに厚労省からも薬機法の改正でトレーサビリティーという言葉が出る様になりました。今、世界でもUDIの重要性は高まっており、GS1標準の一層の活用が求められます。

座長 上塚芳郎先生(前東京女子医科大学 教授)

また、私も現在「単回使用医療機器再製造協議会」の活動を通じて、一度使用して廃棄する医療機器を、再製造業者による洗浄・滅菌を経て再利用する取組みの普及に協力しています。病院から使用済みの機器を収集し、どの患者に用いられた医療機器かを追跡できることが大切となり、UDIの概念がここでも必須となります。

こうした近年の動きから遡り、IMDRF(International Medical Device Regulatory Forum)が出した「医療機器UDIガイダンス(2011 年 4 月)」には、バーコードによる識別表示とともに「登録の義務化」が推奨されていました。これは、国内の医療機器流通のデータベースを構築することで、例えば不具合のある機器を市場でいち早く特定・回収し、エンドユーザーの安全を確保することを目指していたものでした。
落合先生は、医療トレーサビリティ推進協議会の理事長をされています。先生がトレーサビリティーの大切さに気付いたのはどのようなことからでしょうか?

落合:まず、トレーサビリティーという言葉は当初、商品の流通で使われていましたが、医療業界で意識される表現ではありませんでした。医療安全については厚生労働省では医薬・生活衛生局安全対策課が窓口になります。そこはモノとしての製品安全性を預かる部署で、ロジスティクスに関わることはなかったと思います。

私はアメリカで開催された医療情報の展示会(HIMMS)で「トレースバック」と「トラックフォワード」という言葉に初めて出会いました。そこでモノの過去の流れとともに、先の状態をきちんと追えることもトラッキングの大切な概念だと気が付きました。これまでは「どこでどう情報をとるか」に力点をおいていましたが、それでは不十分です。ロジスティクスの全体像を見えるようにした上で、どうあるべきかを構築していくことが大切です。

輸血を例に話します。病院では血液が届けられた後に院内の保管をきちんと行っていれば大丈夫と思って管理していますが、それが病院に入る前はどのように管理していたかという視点を持つということです。勿論、日赤は輸血をしっかりと管理した上で届けており、誰から採った血液で、誰がとったか等、病院へは温度管理を徹底されたうえで届けられています。トレーサビリティーの視点で、病院に入るまで、そして入った後に病院で実際に使用されるまでの温度条件管理なども同じ意識で徹底していく必要があります。
前職の病院でJCI(ジョイントコミッションインターナショナル)の認証審査を受けた際、血液製剤の温度管理について質問を受けました。保管する場所や温度・湿度などの状態以外にも、例えば停電の時はどうしているかなど、徹底した質問を受けました。薬の搬送中は勿論、山積みの在庫ですと外側と内側のロットで温度が違うことが考えられます。トレーサビリティーにはそこまで踏み込んだ概念が含まれています。

医療経済の観点でも重要性の認識は高まっています。スーパーやコンビニが先行例ですが、バーコードで読み取ったデータを、曜日や季節、天気やイベントとの関係から分析を重ね、今ではお弁当の余りが出ないようになっています。
いかに製品を安い単価で買うかも大切ですが、上記の様に病院自体が果たして購入した材料を無駄にしていないか、データを的確に活かしているかも大切だと思います。

落合慈之先生
(前NTT東日本関東病院 病院長、GS1ヘルスケアジャパン協議会 会長、 一般社団法人医療トレーサビリティ推進協議会 理事長 )

上塚:輸血など薬の温度管理の話がありましたが、製造だけでなく、その後にどう保管し輸送されたかも流通全体で追える様にしていくことはトレーサビリティーの重要な視点ですね。一部ペースメーカーなど埋め込み型の医療機器は、メーカー側の努力でシビアにトレーサビリティーを管理してきました。不具合などが起きた時のために、どの患者にどの機種が埋め込まれたかがトレースできるようにしています。最近ではCTで撮影すると機器のバーコードが画像で見える様に工夫もされています。ただ、多くの医療機器ではトレーサビリティーがまだ十分とは言えませんね。

: 現在、日本ではどこまでこうした取り組みが浸透しているのでしょうか。病院の医療材料管理についてはSPDに任せてしまっているところも多いかと思います。

落合:薬は4大卸に集約化が進み、それもあって現在は薬が病院に着くところまでは浸透していると言って良いでしょう。さすがに薬局などでの調剤は渡す際に袋にばらしてしまうため、製造番号との紐づけは完全でないかもしれませんが。

医療材料は薬と事情が異なり少し流通が複雑です。そのためSPDを管理する病院側の体制がより重要になってきます。そうした意味で、例えば自治体病院では職員が2年ぐらいで異動してしまいますが、少なくとも担当者が医療材料を特定でき、院内でどう使われているかを把握できる状況にしていく事が大切でしょう。

また、電子カルテベンダーの理解と協力も必須です。例えば以前に行った院内のシステム更新に際して、病院内の登録医薬品は1,600種類ある、とベンダーの担当者に伝えるとマスターに必要な桁数は「4桁」と理解される様です。GS1の商品識別コードであるGTIN(Global trade Item Number:ジーティン)は14桁あることも含め、システムを構築するベンダー側の理解も後々の運用に大きく影響します。

現場では以前と違う種類の製品に変えたりモデルを変更したりする場合などは、運用上の必要性から病院職員やSPDが買った商品ごとにコードを入れ直しています。しかし、こうすると医療材料は、せっかくメーカーがGTINを使っていたとしても、メーカーのリコールがあったときなどに院内ではすぐに特定することが難しくなります。

上塚:病院のコードを入れ直すというところを補足しますと、製造メーカーではGS1のバーコードを印刷していても、現場では必ずしもそれを活かしておらず、病院職員・SPDが独自のコードを入力したりしています。またマスターに登録がない医療機器は読み込みの時点でエラーが出るなどはじかれてしまいます。それで病院あるいはSPD独自のコードに直しているということが出てきています。

落合:コードの種類が多くあるというのは仰るとおりです。保険請求のためのコードがありますが、地域医療ネットワークではHOTコードが使われています。地域医療連携のためにはコードを書き直す必要があり、これにも目を配ることは大変ですし、現場のヒューマンパワーがかかり非効率です。

ITEC病院運営研究会 代表 関 丈太郎(アイテック株式会社 代表取締役)

:現場でできることと、グランドデザインから考えていくことがあると感じました。

落合:これまでの医療のIT化は、医療現場の「今のやり方」に沿った形で効率化を目指してきました。その結果、全体の最適化につながっていないので、医療の標準化を目的とし、医療のプロセスを見直す様な本質的な点は未着手だと思います。

※医療機器という表現について
本対談において使用している医療機器は医療材料と同義で使用しています

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