セミナー・インタビュー

岩﨑 榮医師に聞く、今後の医師卒後臨床教育に求められること(後編)

更新日:2020/8/3


(後編:今後の卒後臨床研修制度、方向性のヒントをさぐる)


米国で学んだ徹底的な「患者安全」の視点


岩﨑:昨年に米国の大学でシミュレーション医療(スキルスラボ)の運用を視察したと聞きました。関さんはどうお感じになりましたか。

:昨年11月に米国で3つの大学でのシミュレーション教育の取組みを中心に視察してきました。医療安全に対するお金のかけ方や、先ほど先生がおっしゃっていた多様な学問の巻き込み方に驚きました。制度や文化が異なりますが、例えば診察や家族説明のシミュレーションで、患者役はアクタースクール(学部)の学生が協力していることや、患者や家族としての役作りを学ぶコースもあるなど学部間でのWin-Winな工夫に驚きました。また、必要なシミュレーション教育の機器や材料を工学部と連携して作るなど学部間の連携や協力がフラットというか、そうした大学の文化の違いも大変勉強になりました。

岩﨑:少し補足しますと、日本のシミュレーション教育でも当初より患者役をどうするか、に力点が置かれています。折しも今後の医師国家試験でもシミュレーション環境下での診察を審査に加える一環で議論されています。ただし、他学部とのフラットな連携という点では、日本の医学部はまだ閉鎖的なところも多く、変えていかないといけませんね。

また、「医療安全」とおっしゃいましたが、米国の視察先では「Patient Safety」つまり「患者安全」ではなかったですか?日本では「医療安全」と表現されることが多いのですが、その後の理解と対応に大きな違いがあります。

:ご指摘のとおり「患者安全」です。いまはじめて表現の違いを考えましたが大きくフォーカスが違いますね。施設の考え方や医療機器開発の方向性も変わりそうです。

岩﨑:日本の臨床教育は医師の持つ技術の伝承ですとか、そうした側面の考え方もあるかもしれませんが、米国での臨床教育の根本は「患者安全」で、そのためのシミュレーション教育という位置づけが明確です。既にお亡くなりですが、かつては東大の郡司先生がこの分野に明るく、私や現・日本医療機能評価機構の河北先生とともに、米国での患者安全のスタンダードを共に学び、日本に導入しました。尚、日本ではじめて「患者安全」という概念から臨床教育に取り組まれていたのは聖路加国際病院の故・日野原先生です。

医療のシミュレーション教育は一般にはめずらしい分野ですが、関さんはどういったきっかけで関心を持たれたのですか。

:病院の収益化の観点で興味を持ちました。病院にもよくシミュレーション教育のスペース(スキルスラボ)はあるのですが、利用頻度が低く、コストセンター扱いとなっているケースが殆どです。一方で、患者の命を預かる医師にとって、医療機器や特殊な材料は教育で使い慣れたものをその後も使い続ける傾向にあります。機器メーカーの協力を得ながらプロフィットセンター化できないかと河北博文先生にご相談したことがあり、これがきっかけで様々な方のご協力を得て直接米国の施設を視察することになりました。私は「ビジネス化」の視点が先行していましたが、先生もおっしゃっていたとおり持つべき最初の視点は「患者安全」ということが視察を通じて良くわかりました。


今後の卒後臨床教育のあり方

:これまで卒後臨床研修制度に取り組みを踏まえ、先生から見て今後の卒後臨床研修はどのように変わっていくことが望ましいとお考えでしょうか。

岩﨑:前述のとおり、総合的に患者を診ることができる医師の育成が必要です。そのためには、総合医の多い病院が、より評価される仕組みをつくっていくことが望ましいと考えます。先進性や専門性を担う大学での教育が難しい分野でもあるため、地域医療機関の役割がとても大切です。

また、その上ではじめて専門医としてのフィールドが活きてきますが、現在この認定は各関係学会がそれぞれの事情や判断で担っています。本来は統一した考え方や基準をもって審査し、認定していくことが望ましいでしょう。また、そうした全体的な枠組みのなかで、やはり「患者安全」に根差したシミュレーション教育の充実も重要だと考えています。

米国の視察は、参加されたメンバーを見ると医療者もいて、色々な立場の企業もいる。正に多様な考え方に触れたアイテックならではだと思いました。ぜひ続けて頂きたいと考えています。

:本日は貴重なお話しをいただき、有難うございました。今後の大きな方向性を見ながら私どものコンサルティングにも活かしていきたいと思います。

【岩﨑 榮先生】
1957年 長崎大卒医学部卒
1960年 エヴァンジェリスト医科大学留学、1969年長崎大医学部助教授を経て
1982年 国立病院長崎医療センター副院長に就任
1983年 長崎県立成人病センター多良見病院院長に就任
1984年 国立医療病院管理研究所医療管理部長に就任
1990年 日本医科大学医療管理学教室主任教授に就任
1997年 日本病院管理学会理事長に就任
2004年 日本医科大学法人顧問に就任、日本医療機能評価機構理事を併任

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