セミナー・インタビュー

高橋 泰医師に聞く、ポストコロナにおける病院経営

更新日:2020/7/6

(写真左より)
国際医療福祉大学 赤坂心理・医療福祉マネジメント学部 教授 高橋 泰氏                 ITEC病院運営研究会 代表 関 丈太郎(アイテック株式会社 代表取締役)


サステナブルな病院経営の実現を目指す。当研究会のテーマに対し、新型コロナウイルス感染症は今後大きな影響を及ぼしそうだ。長年、医療計画・政策の分野で様々な研究、提言活動を行ってきた国際医療福祉大学高橋泰医師に、予見されるポストコロナの病院経営について話を聞いた。


ITEC病院運営研究会 代表 関 丈太郎(以下、関):まず簡単に、高橋泰先生のご略歴を紹介させて頂きます。
1986年金沢大学医学部卒、東大病院研修医、東京大学医学系大学院(医療情報学)、米国スタンフォード大学アジア太平洋研究所客員研究員、ハーバード大学公衆衛生校武見フェローを経て、1997年より国際医療福祉大学教授に就任。2004~2008年医療経営管理学科長、2009年より大学院教授に就任。2016年より医療福祉学部長(大田原)、大学院教授を兼任。2016年9月より内閣未来投資会議・構造改革徹底推進会合医療福祉部門副会長などの要職を歴任。大学院医学研究科医療福祉管理学分野教授を兼任されています。

関:新型コロナウイルスによる患者数減少への対応は、多くの病院にとって喫緊の課題ですが、本日は地域でのサスティナブルな病院経営の実現を目指すうえで必要なことを色々な角度からお話をお聞かせいただければと思います。


ファクトの視点でみた新型コロナウイルス感染症

関:まず、今後の病院経営、というテーマに入る前に、新型コロナウイルス感染症を受けて実態予測と今後に向けた提言活動に注力されているとうかがいました。この点についてお聞きします。

高橋:私は新型コロナに関するメディアの報道やこれまでの施策に対し、現場での実態に大きな乖離があると感じ、ファクトをもとに検証してきました。まず、日本における新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)には、注目すべき3つのファクトがあります。

①欧米に比べて死亡率が極端に低い、②リスクが高齢者と若年者で大きく異なる、③インフルエンザなど、他の感染症と比べて死亡者数が少ない、という点です。新型コロナは、これまでの研究でもインフルエンザウイルスと比べて毒性も増殖力も弱いことが知られています。日本を含む多くの国での推計や対策は、実態が見えない段階からインフルエンザをモデルとしてきました。

しかし、本年5月6日の「JAMA Published online」に発表された「新型コロナの診断テストの解釈」という論文で新型コロナを従来のインフルエンザ症状と比較して、新型コロナは暴露から症状出現までの時間が長く、またIgM抗体  IgG抗体の立ち上がりが極めて遅い特徴があります。この知見は、新型コロナに暴露しても、抗体が陽性になる前に治ってしまうことがおおいことを意味すると解釈しました。なぜこうなるかというと、前述の様に新型コロナが思いのほか毒性や増殖力が弱く、自然免疫で処理できるケースが大半であることに起因していると考えました。

インフルエンザの場合、治癒手段は「獲得免疫」となります。罹患(りかん)した際、ウイルスの毒性が強いためそれを抑え込む、例えば軍隊の様な、強烈な抗体が体内で短期のうちにできます。そして、これがウイルスを叩く結果として獲得免疫となります。一方、新型コロナの場合は、どうやら毒性が弱く、そのため罹患しても体内でお巡りさんが対応する程度となり、症状も出るのが遅いか、むしろ無症状のまま治る人が多い。新型コロナの場合はむしろ「自然免疫」が主な治癒手段であると考えられます。しかし、重症化する患者の例を見ると、ウイルスそのもの、というよりは抗体による過剰な免疫反応(サイトカインストーム)で最悪は死に至るプロセスが見えてきました。

重傷者数や死亡率など、日本での新型コロナが欧米と比べて緩やかな理由に、私は5つの要因があると考えています。1つ目は欧米より自然免疫力が強いこと。我々が行った推計では日本人の98%が自然免疫でコロナを抑え込みますが、欧米では80%程度しか抑えられない。標準分布で考えると98%と80%はわずかな分布の差ですが、このわずかな差により、大きな感染パターンの差が生まれます。2つ目は、日本人が血が固まりにくい体質があり、コロナの重症化の大きな原因である血栓ができにくいこと。3つ目は重症化しやすい高齢者に対し、日本では欧米と比べ隔離レベルの高い生活が確保されていること、4つ目は日本人の清潔好きな生活習慣、5つ目は優れた保健医療制度です。これらの5つの要素が複合的に絡み合っているのではないでしょうか。

私は、新型コロナに関するこれまでの研究から、新型コロナに暴露したことがない状態(ステージ0)から重症化して死亡に至る状態(ステージ6)までで構成する「新型コロナ感染7段階モデル」を作成し、段階別の患者数の推計から下の5つの提言をまとめました。

1、新型コロナ対策には、インフルエンザ的な振る舞いを行う感染症モデルだけでなく、新型コロナの感染パターンに合ったモデルを用いて検討すること。
2、世代別リスクと社会活動抑制の弊害のバランスを考慮した対策を行うこと。
3、第2波あるいは他の新型ウイルスに対して、発症や重症化の比率に応じた対策を行うこと。
4、新型コロナの軽症患者への対応基準を変更すること。
5、新型コロナ等対応の研究体制を拡充すること。
これらの詳細は、社会保険旬報6月21日号と7月1日号に掲載されていますので参考にしてください。

関:非常に説得力ある思い切った推計分析と提言だと思います。さて、まだどうなるかが不安ですが、新型コロナウイルス後の病院経営は今後どのように変わっていくと、先生はお考えでしょうか。



ポストコロナの病院経営

高橋:診療報酬がそのままの中で、今回の新型コロナにより外来・入院患者ともに大きく減少し、病院経営が悪化しました。このままでは、地域で本当に必要な病院すら経営破綻する恐れもあり、新型コロナの影響による減益分を国が補填する必要があると考えます。そのためには、きめ細かい分析の上で減益分の影響を把握する必要があり、現在、病院ごとのDPCデータからその作業を行っています。

個々の病院への必要な補填は、地域性、診療科、診療形態をパラメーターに、係数による病院ごとの入院基本料、初診料、再診料の増額を検討していく方法があると思います。また、これらの喫緊の対応とともに、病院経営は長い視点でみると今後の患者需要にある程度合わせていかなければなりません。

例えば、これまで不要不急の医療で来院していた患者が、「病院は感染リスクの高い場所」というイメージを抱き、できれば来院したくない、という傾向が強まりました。この傾向が続く場合には、限られた患者の規模にどう対応していくのか、病床規模や職員数をどう見直していくのかなどについて個々の病院が考えていくことが求められます。

その一方で、日本の医療制度は、厚労省が販売する商品の内容やその値段を決め、医療機関はそれに従って商品を提供しているので、極論すると、厚生労働省がコンビニの本部、医療機関はフランチャイズという経営形態にも見えます。従って、個々の病院だけでなく商品の値決めを行う厚労省が新型コロナ後に向けた大きな方針を打ち出していくことも必要でしょう。

また、一般社会では、働き方改革が進んでいますが、これまで対象外とされていた医師についても、2024年4月には「医師に対する時間外労働上限規制」が適用されます。この対策を地域ぐるみで講じなければ、地域の外科系診療や救急医療が崩壊する恐れがあります。従って、地域の事情にあわせ、例えば一定の病院に集中させてチームを編成するなどが求められます。この実現には、個々の病院単位ではなく地域単位で検討していく環境が必要となってきます。


30年前に描いた「未来の病院像」と、今後への示唆

関:先生は長年にわたり、日本の医療需要の予測に基づく将来の医療提供体制の在り方について研究され、様々な提言をされてきました。先生は30年ほど前(1991年)の病院設備学会(現、日本医療福祉設備学会)で、近未来の医療提供の在り方を、当時民間企業と共同で「病院ルネッサンス」というテーマで提言されました。当時の予測から、現在、そして2025年の医療はどのように映られているでしょうか。

高橋:当時はまだ一般病床の機能が分かれておらず、現在の「急性期」「回復期」「慢性期」の病床が同じ区分で扱われていました。しかし、在院日数別に医療費を調査してみると、急性期の患者が入院して初期は医療費が高く、一定期間を過ぎると医療費は低くなることが分かり、内容が大きく異なる状況がわかりました。つまり、急性期病院の役割は、検査や治療が集中する入院初期段階であり、入院後半は退院するか、より身近な地域の病院に転院した方が効率的であることが分かりました。

当時は大学病院など、大規模な病院に患者が集中するなど多くの課題がありました。それらの課題を解決するために、架空のモデル病院(600床、外来患者1日2,000人)を想定し、近未来におけるあるべき姿として3つの機能に分ける(①200床の救急を中心とした都心型急性期病院、②400床の療養を中心とした郊外型回復期病院、③外来患者を診るコミュニテイークリニック)ことを提言しました。この提言に向けて、当時参加していた企業の若手メンバーと保養施設で何度か合宿もしながら議論を重ねました。

その後、日本の医療制度も変遷し、1992年には在院日数の長い患者の入院施設として療養型病床(当時は療養型病床群)が制度化され、2014年には一般病床及び療養病床は、「高度急性期」、「急性期」、「回復期」、「慢性期」の4機能に区分する制度が導入されました。当時提言したモデルが30年近くかかりようやく実現しつつあります。また、私は地域ごとの病床機能を調査するために数年かけて全国のすべての2次医療圏を訪ね、地域の主要な病院を視察してきました。

日本の病床数は年々減少傾向にありますが、国際的にはまだ病床数が過剰だと思います。今回の新型コロナである一面は明らかになったように、今後は本当に必要な需要をみつめなおし、病院経営を行っていくことが重要です。また、同時にICTの普及により蓄積されるビッグデータを、AIなどを活用することで、より最適な医療を患者に提供していくことが求められます。

関:全国の二次医療圏の病院をご自身の足で回られた先生のご意見は、言葉の重みが違うなと、改めて感じました。また、30年前と同様に、これから30年後を見据えた提言についても期待いたします。本日は、わかりやすい例えを交えた貴重なお話を頂きありがとうございました。

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